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まるで利き腕を矯正するようなEメール(矯正メール)



左利き人口は全体の1割程度らしい。とにかく少数派。だから世の中の多くは右利きに都合のいいようにできている。
そのおかげで左利きは不便な思いをすることが少なくない(かく言う私も左利き)。


どのような不便があるのか。
身近なところで言えば、駅の改札口にもある。
自動改札の切符投入口はすべて右側。機械に向かって切符を投入するという単純作業なのに、利き腕でないと意外と難しい。タイミングをしくじると、間髪入れずに「ちっ」という声が背後から襲いかかる。
だから左利きにとって関所のような改札口を通過するたび、利き腕の矯正を強いられているような気分になってしまう。


ちょっと前置きが長くなってしまったが、ここからが本題。
じつはEメールマーケティングでも、利き腕の矯正を強いるようなメールに出くわすことがある。ここでは便宜的に「矯正メール」と名づけよう。
矯正メールの特徴は、次の一文が含まれている。


「このメールは、等幅フォントでご覧ください」。


企業が配信するメルマガや宣伝メールでは、文字や記号を組み合わせて、目次や段落の見出し部分に装飾を施したものをよく見受ける。
装飾にとどまらず、表組みをしたり、風景や動物などをイラスト化したりといった「芸術」もある。


これらの「アスキーアート」と呼ばれる技法を駆使したメールは、文字で埋め尽くされたコンテンツに比べて視覚的に華やかかも知れない。


しかし問題がないわけではない。
せっかくのアスキーアートも、受信者のメールソフト設定によっては、でこぼこ、ガタガタに見えてしまう。
これらの装飾や描写は、一般的に「等幅フォント」を用いて制作されることが多い。だけれど、受信者側のメールソフトが同じ等幅フォントに設定されていないと、制作者の意図どおり表示されず、型崩れが起こる。
プロポーショナルフォントに設定されてようものなら、10階建てのビルから飛び降りて複雑骨折したみたいにガタガタ状態になる。


制作者としては、型崩れなしで制作意図どおりキレイに見てもらいたい。
そこで登場するのが、先に挙げた矯正メールの呪文、「等幅フォントでご覧ください」となる。


消費者から配信の同意を得る手続、いわゆるオプトインの際は「最新情報をメールでお送りしてもいいでしょうか」と低姿勢で訊ねていたのに、いざ配信になると、メールソフトの環境をこちらの言うとおり変えよという。つまり発信者の制作意図を伝えたいがために、矯正を強いているわけだ。


これは企業の論理に他ならないのではないか。
日本料理店で右利きの客に向かって、「お客さん、この料理はお箸を左手に持ち替えてお召し上がりください」というのと同じことだ(右利きのみなさん、ぜひ試してみてください)。


矯正メールは、企業の論理のエッセンスが多く含まれていることを理解したい。



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